甲子園を特集した本号。同い年の松坂大輔が巻頭を飾るのであれば、買わない手はない。横浜高校が春夏連覇を果した年は、私は高校三年生であり、とにかく集中して勉強をした。今思い返せば、どうしても行きたい大学・学部を目指す自分自身を、甲子園での優勝を目指す彼らに投影したかったのかもしれない。
まずは、その松坂と桑田との対談から。私にとって、桑田はプロになってからのイメージが強く、PLでの桑田に関する記憶はない。しかし、この対談記事を読んで、二人の天才の感性に魅了された。特に興味深かったのが、集中力に関する相反する反応だ。
桑田 僕はビンチになると、広く全体を見ていたのがスーッと一点にフォーカスしていける感じだったな。スッと寄っていくとき、音もピシャーンと切れる。
松坂 僕は逆ですね。僕は集中すると、何でも聞こえるようになるんです。
桑田 へーっ、おもしろいな。
松坂 だから相手の応援歌もよく聞こえるのかもしれません。集中すればするほど、よく聞こえてくるんです。(21頁)
集中すると自分の世界だかにフォーカスされるのか、それとも俯瞰して全体を見られるようになるのか。ともすると、私たちはどちらかに意識を傾けてしまうが、ここで大事なのは、人によって集中したときの感覚が異なることである。さらに大事なのは、そうした自分を集中させるルーティンに自覚的になることで、厳しい場面でも自分自身を目の前の事象に対して集中させることができるということであろう。
松坂 僕はマウンドの上でよく相手の応援歌を口ずさんでました。PLの応援歌とか好きだったんで、ピンチになって向こうが盛り上がると、僕も一緒になって盛り上がってました。(21頁)
松坂の凄みに唸らされるのは、意識を集中させて全体が見えるようなピンチの状態において、相手の応援歌を口ずさんで自分自身を鼓舞していることである。相手の力を自分の力に変えて、自分自身を集中させてベストを尽くすということが習慣化されているのであろう。
「頂点を極めた人というのは挫折に弱いと聞いたことがあるんですけど、アイツが凄いのは、挫折してもそれで終わらないところだと思うんです。挫折しても弱いところを見せないし、どん底からでも這い上がってくる。僕もケガに泣かされて、もうダメだと烙印を押されて、それでも這い上がってきたという自負がある。それは、僕は他の誰よりも、這い上がってきた松坂の影響を受けているからなんです。昔もすごかったけど、僕は今の松坂が一番強いと思ってます」(25頁)
横浜高校の同級生であり、現在でも唯一の現役のプロ野球選手である後藤武敏による松坂評である。挫折から、這い上がる。頂点を極めた存在がそうした苦しみの中から蘇生することは難しいように一般的には捉えられるものだが、果たしてそうであろうか。逆境の中でこそ真価は問われるものであり、そうした状況化で愚直に自己を動機付け、新しい自分の可能性を見出せるからこそ、プロフェッショナルなのではないだろうか。
Number841「東北楽天、9年目の結実。」(文藝春秋、2013年)
Number836「イチロー 不滅の4000本。」(文藝春秋、2013年)
Number816「日本最強のベストナイン」(講談社、2012年)
Number792「ホークス 最強の証明。」(文藝春秋社、2011年)
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