2017年8月14日月曜日

【第738回】『人工知能はいかにして強くなるのか?』(小野田博一、講談社、2017年)

 人工知能という存在を初歩の初歩から学ぶ上で、概念の定義を丁寧に行い、様々なボードゲームにおける適用の例をふんだんに示して解説を試みている。今さら聞くに聞けないことを学べる、初心者にとってありがたい一冊である。

 機械学習とは、素データ(集めたままの状態で、何も加工していないデータ)の背後にある何らかの規則をコンピューターが拾い上げることです。(27頁)

 著者が何度も本書で述べていることは、「学習」という言葉が使われていても、人間が行う「学習」と人工知能が行う「学習」とは異なる、という点である。ここでは機械学習について述べられており、コンピュータが規則を拾い上げるという特徴が挙げられている。

 換言すれば、データ化されていないものをコンピュータは学べないのであり、どのようにデータ化するかが今後私たちが行うべきものとなるのであろう。例えば、人事の領域で言えば採用はAIが担える可能性が高いと言われている。適用するとしても、採用活動の全てを置き換えるのではなく、どのようにデータを用意し、それをどのように活用するかが鍵となる。少なくとも黎明期においては、私たちがそれを判断しサポートする必要があるのではないか。

 深層学習(deep learning、deep machine learning)は、英語の後者の呼び名でわかるように、機械学習の一部で、ニューラル・ネットワーク(neural network)を使った分析計算とほぼ同義と言っていいでしょう。ニューラル・ネットワークとは、多層パーセプトロン(multilayer perceptron)のことです。パーセプトロンとは、ミンスキー(Mrvin Minsky)の説明によれば、「一群の機械」で「多数の部分的な観測結果を加え合わせることによって判別ーー入力事象が、あるパターンに合致するかどうかの判断ーーをするもの」です。(61頁)

 アルファ碁で広く人口に膾炙した深層学習の定義である。同時並行的にある現象を観測してその結果を統合的に判断することが深層学習であり、ある事象を人間が深掘りするという行為とは異なることが理解できるだろう。言葉の持つイメージ、また翻訳された言葉によって感じる印象があることは致し方ないが、原義における定義を押さえることが、新しい現象を理解する上で必要な態度である。

 人間同士の対局では、とんでもないポカがあって、そこで形勢が逆転することが多々あるので、人間同士の対局だけでデータを解析すると、「一方が優勢な局面(α)でポカをして結局負けた対局」では、αを負けの局面として解析用資料としてしまうことになりますーーそのような解析をしないように工夫されていないならば、ですが。それで、結果予測の解析に正しくないデータが多々加わっていることになるので、人間同士の対局だけの解析では、結果予測がいくぶん正確さに欠けるものとなります。それで、AlphaGo同士の対局を行なって、ポカなし対局データを多量に加えることで結果予測をより正確にしたのです。(215頁)


 最初に引用した機械学習の概念からすると、機械は、良くも悪くも全てから学んでそこから規則を生み出す。したがって、失敗や誤解をそのまま受け取ってしまう。だからこそ、補正が必要であり、その補正の手段として、機械同士のミスのない対局によって学び合うというのだから、空恐ろしい感じもする。


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