2017年8月15日火曜日

【第739回】『人工知能の核心』(羽生善治・NHKスペシャル取材班、NHK出版、2017年)

 NHKスペシャルで著者が人工知能を取材していた番組は興味深かったのであるが、必ずしも内容を理解しきれなかった。当時はまだ人工知能というものを書籍でも読んだことがなかったので咀嚼できなかったのだと思う。図書館で本書を偶然に見つけて、復習も兼ねて、著者が人工知能という存在をどのように捉えて、どのように共存しようとしているかを学ぼうと考えた。

 私は、これまで将棋の本で折に触れて、無駄な情報を扱うことを減らす「引き算」の思考にこそ人間の頭脳の使い方の特徴があると書いてきました。ディープラーニングに、こういう「引き算」の要素が入っていることは、とても面白く思います。(25頁)

 情報を膨大に蓄積することで能力を高めていくコンピュターに対して、将棋の棋士として大事なことの一つとして無駄な情報を減らすという引き算が重要であると著者は述べる。こうした人間の持つ強みの部分を、ディープラーニングは機能として持っているというから驚く。著者特有の軽妙な言い回しで表現されるために、これが恐怖としてよりも、ディープラーニングを行うコンピュータに共感を覚えながら読めてしまうから面白い。

 認識エラーが発生したという結果から遡って、つまり信号が逆方向に流れて、問題のありそうなところの「重みづけ」を自動的に変更する、というようなことを繰り返せば、認識の精度は向上するはず。これが「誤差逆伝播法」と言われる手法で、ディープラーニングは、この手法に工夫を加えて出来ているアルゴリズムだ。(57頁)

 「引き算」をディープラーニングがどのように行うのかを、取材班が解説した箇所である。最初に引用した箇所とセットで読むことで、著者が述べたかったことをより理解できる。

 そのときに大事なのは、実は「こうすればうまくいく」ではなくて、「これをやったらうまくいかない」を、いかにたくさん知っているかです。取捨選択の「捨てる方」を見極める目こそが、経験で磨かれていくのです。(210頁)

 引き算をできるようになるためには、経験によって磨き、経験を活かすことである。成功体験が後で自身に復讐するという考え方がある中で、この部分は納得しやすいのではないか。失敗から謙虚に学ぶことは、失敗を繰り返さないようにすることとともに、長期的な成功へと活かすことができるのかもしれない。

 人工知能は、データなしに学習できない存在だということです。とすれば、データが存在しない、未知の領域に挑戦していくことは、人間にとっても人工知能にとっても、大きな意味を持つと考えています。(215~216頁)

 いい捨て方を学ぶことによって、未知の領域に挑戦し、すぐに失敗してもすぐに修正して立て直す対応力が磨かれる。変化に激しい時代と言われて久しい現代社会において、こうしたマインドセットが求められているのである。

 

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