2017年8月27日日曜日

【第746回】『成長する管理職(2回目)』(松尾睦、東洋経済新報社、2013年)

 歯ごたえはあるが、実務家が読んで咀嚼できる学術書がある。そうした書籍を読むと、共感できる具体的な事実に基づきながら、言われてみればなるほどと得心する抽象化され、学びが深まって応用可能なように思えて勇気が湧いてくる。本書は、まさにそうした学術書の一冊である。

 企業内の人材育成において、管理職へ当たる焦点は年ごとに強まっているように思える。管理職に人材がいない、人材が育たないのは管理職のせいだ、優秀な若手は管理職になりたがらない、などと、企業における人材上の課題の責を管理職は一手に引き受けているようにも見える。まさに、管理職受難の時代である。

 本書では管理職をどのように育成するか、もっと言えば管理職になる前の時点からどのように育成するか、に焦点が当てられている。序章で述べられている示唆では、管理職にとって「それを言っちゃおしまいよ」と言いたくなるような一節が語られる。

 マネジャーの成長過程において、過去の経験が現在の経験を制約する「経路依存性」(path dependence)が存在する(26頁)

 つまり、今の自分にとって必要な経験は、そうした経験を促す経験を過去において経たかどうかに因るということである。過去の経験が現在得られる経験を規定するとしたら、私たちは経験から学んで成長するわけなのだから、過去が自分の伸びしろを決めるというのは残酷な発見事実とも言える。

 では経験を積む上で留意するべきことは何か。ここで著者の示唆は、私たちに恵みを与えてくれるかのようだ。

 人が特定の経験を積むとき、組織における役割の重さよりも、その出来事に「かかわる」こと自体に重要な意味があることを示している。(118頁)

 同僚に恵まれていようが、成長しているエクサイティングな企業で働いていようが、経験を積むという点で環境は関係がないとし、かかわることが大事であると著者は述べる。環境を言い訳にするのではなく、主体的に、当事者として出来事にどう関与するか。それによって、後で活きる経験を積むことができるという著者の提言に救われた気がするのではないだろうか。

 ではどのようにすれば経験を引き寄せることができるのであろうか、という鋭い問いへと著者の研究の射程は広がる。

 これまでの研究では、挑戦的経験と学習の関係を強める要因として学習志向が分析されてきたが、本章の分析によって、学習志向が挑戦的経験そのものを引き寄せる効果を持つことが明らかになった。(143頁)

 まず定義から入ると、ここでの学習志向とは「挑戦・好奇心・独自性を重視」することを指している。こうしたマインドセットを持っていることが、「部門を超えた連携」や「変革への参加」といった経験へと繋がるのである。


 私たちは安定したいし、ベストプラクティスという名の右へ倣えの精神を持ちがちだ。しかし、ここで述べられている学習志向というマインドセットを持つことが私たちに次の経験を積ませるということを意識することが肝要である。自戒を込めて。


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