著者は、マネジメントを大胆にも三つの次元、すなわち情報・人間・行動に分けて説明を試みている。定性的研究の模範のように、29名ものマネジャーへのインタビューに基づき、彼(女)らの発言に耳を傾けながら、具体的事実の重みを尊重しながら理論化を試みている。
マネジャーがリーダーシップを過剰に発揮すると、マネジメントの中身が空疎になり、目的や枠組み、行動が乏しくなるおそれがある。マネジャーが外部との関わりを重んじすぎると、マネジメントが組織内の土台と切り離されて、実際に人と関わることより、上っ面のPR戦術が偏重されるおそれがある。コミュニケーションを取ることしかしないマネジャーは、なにごとも成し遂げられない。行動することしかしないマネジャーは、すべてを一人でおこなう羽目になる。ひたすらコントロールばかりしているマネジャーは、イエスマンとイエスウーマンだけの空っぽな集団をコントロールする結果になる。人間志向のマネジャーも、情報志向のマネジャーも、行動志向のマネジャーもいらない。必要なのは、この三つの次元すべてで活動できるマネジャーだ。三つの次元の役割をすべて果たしてはじめて、マネジャーはマネジメントに不可欠なバランスを保てる。(136~137頁)
マネジメントにはバランスが求められる。情報、人間、行動の三つのマネジメントそれぞれをマネジャーはバランス良く使う必要があると著者は指摘している。それとともに、半ば矛盾することをこの直後に述べているところが、著者の面白さである。
マネジメントにはバランスが必要だと指摘した。しかし、マネジャーは誰しも特定の役割に大きな比重をおくという指摘もした。矛盾に聞こえるかもしれないが、そんなことはない。バランスの取れたマネジメントは、そのときどきに直面する課題に合わせて、さまざまな役割の比重をたえず変化させることによって実現する。(146頁)
もちろん、著者も丁寧に述べている通り、先述した箇所と矛盾しているわけではない。むしろ、マネジャーには三つの次元を高く持っている必要があり、それを状況に合わせて比重を変えて発揮せよ、と著者は述べているのである。いやはや、ここまで要求水準が高いと、マネジャーにとっては耳が痛いだろうが、実際のマネジャーへの聞き取り調査から導き出されているのだから傾聴すべきであろう。
バランスが取れていて、それを状況に応じて使い分けられるマネジャー。そのようなパーフェクトな存在はなかなかいないだろう。こうした現実を踏まえた上で、著者は、マネジャーを選抜する際のポイントを述べている。
欠点が一つもないマネジャーなど、いままで一人もいたためしがない。誰をマネジャーの職にすえても欠点が早晩明らかになるのであれば、早い段階で欠点に気づくほうがいい。マネジャーの選考は、資質を基準におこなうのではなく、欠点を基準におこなうべきだ。(341頁)
マネジャーの欠点が後になって致命的な欠陥だと判明して、あたふたする羽目にならないために、仕事の内容と組織の環境に照らして、一人ひとりのマネジャー候補者の欠点を慎重に検討したほうがいい。(342頁)
強みに焦点を当てて人材を開発するという発想はおそらく正しいのであろう。しかし、その延長線上で、一つの優れた資質を理由に、非管理職層の抜擢をすることを著者は諌めている。これは最初に引用した三つのバランスが大事であるということと符合する指摘であるだろう。
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