はじめて夢中になって読んだ小説を十年以上ぶりに紐解いた。児童書とか青春小説といったような安易なジャンルづけを拒むような迫力。
内面を他人に見せようとしない主人公の内面の描写。まっすぐな感情表現が清々しい。他方、他者との葛藤や葛藤を通じて気づきを得ていく主人公の様は読み応えがある。
指示のままに全力をこめたボールを投げる。ほんとうに全力だった。自分の球を見せつけようとも、豪をたかがいなかのキャッチャーだとも思わなかった。自分の中にある力ぜんぶで、ボールを投げられる。そのことが嬉しかった。心の芯が熱を持ってリズムを打つ。そんな感情だった。(85頁)
一つのものに集中する。それを自然に行える。才能とはこういったものなのだろう。
「おばさん、野球って、させてもらうもんじゃなくて、するもんですよ」(163頁)
主人公の持つ類まれな才能は、私はどの分野でも有していない。しかし、この感覚はとてもよくわかる。
おそらく、私たちは幼少時代から他者評価を気にしすぎるし、他者評価を前提としたシステムのなかに生きすぎている。私自身、中学生までは、学校の成績というものを気にして、テストの際に「勉強」をしていた。
しかし、自分で学ぶことにコミットしてからはそうした感情はなくなった。他の方から時に「何のためにそんなに本を読むのか」とか「勉強し続けられてすごい」などと言われる。個人としては、読みたいから本を好きなだけ読むだけであり、学びたいことがあるからそれを深めたい感情にすぎない。
主人公の野球に対する思いと、他者からの煩わしい発言に対する苛立ちが、少しわかるような気がする。
【第420回】『一瞬の風になれ 第一部』(佐藤多佳子、講談社、2006年)
【第422回】『一瞬の風になれ 第二部』(佐藤多佳子、講談社、2006年)
【第423回】『一瞬の風になれ 第三部』(佐藤多佳子、講談社、2006年)
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