圧倒的な才能を持った投手と、それを受け容れる捕手がいる。それでも一筋縄でいかないところが「バッテリー」の素晴らしさなのであろう。
学校、教師、親、先輩などといった面倒な存在に嫌気がしながらも、それでも自分自身を信じて、不器用ではありながらも前に進む主人公。自分を貫く一方で、大事な仲間との反発や感情的な対立を葛藤しながら乗り越えていく内面描写がすごい。
自分でもよくわからなかった。けれど、昨夜、確信したのだ。昨夜、豪は巧を信じると言ったのだ。とことん自分を信じてくれる人間がいるのなら、なんでもできるじゃないか。心底、思った。それを豪に伝えたい。けれど、どう言えばいいのか巧にはわからなかった。(257頁)
まっすぐな人ほど、自分自身の気持ちをそのまま表す言葉を紡ぎ出すことが難しいのであろう。イチローは、言葉にこだわるために、インタビュアーに求めるレベルが非常に高いという。
想いの強さを言葉に変換することは難しい。そして、それが理解されないと苛立つし悲しいし、うまく言語化できない自身に腹が立つ。
たくさんの現実と折り合いながら、夢が叶うならそれでいいじゃないか。(200頁)
豪のモノローグ。中学一年生でこの達観ぶりに驚くが、捕手というポジションは、試合展開を長いスパンで捉え、配球にストーリーを創り上げるため、自分をも客観視することができるのかもしれない。
【第420回】『一瞬の風になれ 第一部』(佐藤多佳子、講談社、2006年)
【第422回】『一瞬の風になれ 第二部』(佐藤多佳子、講談社、2006年)
【第423回】『一瞬の風になれ 第三部』(佐藤多佳子、講談社、2006年
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