戦働きという偶像に憧れていた主人公が、第二巻における自家の存続を賭けて争う戦場での命のやり取りを目の当たりにして自身の甘さに気づかされ、思い悩む。それまでの冒険活劇やリーダーシップの物語から一転して落ち着いたトーンで展開される。
姉は自分と違い、戦に出たがっていた。それがいまや、「戦船に女を乗る事堅く可禁」という軍書の条文ではなく、自らに資質がないと思い知らされることで道が閉ざされた。だとするならば、その失望は深いものにならざるを得ない。(83頁)
弟から見た姉の様子がもの哀しさがよく表れていて、読んでいていたたまれない気持ちに吊り込まれる。
しかし束の間の平穏な生活を送る中で、再び戦場に向かうことを決意する主人公。一向宗徒の老爺を助けられなかった過去の自身への失望から、将来において救いたい存在へと焦点を変えることで自身の想念に静かに気づく。
「瀬戸内を出たとき、あいつらは極楽往生がすでに決まっていると信じていた。それでも、弥陀の御恩に報いるために、行かぬでもいい戦に行って命を捧げたんだ。戦場では退けば地獄だと脅され、話が違うと知っても、あいつらは仏の恩義を忘れようとはしなかった。オレは見事だと思った。立派だと思った。オレはそういう立派な奴らを助けてやりたい。オレはあいつらのために戦ってやりたい」(243頁)
主人公による、死と再生の物語となり、最終の第四巻へと物語は続く。
【第384回】『国盗り物語(一)』(司馬遼太郎、新潮社、1971年)
【第385回】『国盗り物語(二)』(司馬遼太郎、新潮社、1971年)
【第386回】『国盗り物語(三)』(司馬遼太郎、新潮社、1971年)
【第387回】『国盗り物語(四)』(司馬遼太郎、新潮社、1971年)